資材価格の上昇局面における見積の有効期限と契約条項の考え方
経済調査会が公表した石油系資材の価格動向によると、建築用シーリング材が 27.7% 上昇しました。硬質ポリ塩化ビニル管は 6.9% の上昇で、調査対象 18 品目のうち 9 品目が値上がりしています。翌月の先行きについても「強含み」とされています。
中東情勢に伴う原油・ナフサ価格の高騰が背景にあり、塗料、防水材、接着剤、断熱材、電線管など、石油由来の資材が広く影響を受けています。
こうした局面では、見積の出し方と契約条項の整備が、元請の収益を直接左右します。本稿では、実務上の対応を 3 つの観点から整理します。
1. 見積の有効期限は、協力業者の見積の有効期限に連動させる
見積の有効期限を発行日から 10 日程度に設定する例があります。一般的な感覚では短く見えますが、根拠があります。
協力業者から取得した見積の単価が、それ以上の期間保証されないためです。業者から 10 日の保証しか得ていない単価をもとに、施主に対して 1 ヶ月の有効期限を提示すれば、その差分のリスクは元請が負うことになります。
有効期限を長く設定する場合、あるいは記載しない場合は、その期間の価格変動リスクを織り込んだ単価とする必要があります。どちらを選ぶかは方針の問題ですが、両者を混在させると、リスクの所在が不明確になります。
2. 契約後の増額を認めない方針は、発注の速さと一体で成立する
協力業者への発注後は増額を認めない、という方針をとる元請があります。この方針が機能するためには、条件があります。
元請自身も期限を切り、受注が決まったら速やかに発注することです。業者に対して短期間の単価保証を求めながら、受注後の発注を長期間保留すれば、次回以降の見積で業者は防衛的な単価を提示します。結果として、平時の調達単価が上がります。
一方の当事者だけが期間リスクを負う取引関係は、継続しません。
3. 受注から発注までの期間が、最も対策の難しい区間です
実務では、受注後ただちに発注できるとは限りません。
施工図を作成し、施主または設計事務所の承認を得たうえで、内容を確定してから発注する工程が入ります。この工程を省略することはできません。承認前の段階では、数量も仕様も変更の可能性があるためです。
さらに、受注後に施主の要望により仕様が変更される場合もあります。
したがって、受注から発注までに数週間から数ヶ月を要することがあります。この区間で資材価格が上昇した場合、その負担は元請に生じます。見積の有効期限を短く設定しても、この区間は対象外です。
資材価格の上昇局面において、元請が最も注意すべき区間はここにあります。
4. 見積書における但し書きの記載
上記の区間に備えるため、見積書に契約条項に関する記載を設ける方法があります。記載例を挙げます。
中東情勢 (ホルムズ海峡の通航制限) に伴う原油・ナフサ価格の高騰により、塗料・防水材・接着剤・塩ビ管・断熱材等の石油由来資材および鋼材・燃料費等について、急激な価格変動およびメーカーからの納期回答遅延・出荷停止・代替品指定が発生しております。
本工事の請負契約は民間 (七会) 連合協定工事請負契約約款に基づくものとし、契約締結後において主要資材の価格高騰または入手困難等が生じた場合には、ご協議のうえ、以下の対応をさせていただく場合がございます。
- 請負代金額の変更
- 工期の延長
- 不可抗力による損害の負担
記載にあたっての要点は次の 3 点です。
価格変動の原因を具体的に記載する。「昨今の情勢により」といった抽象的な表現では、施主が状況を判断できません。どの資材が、どのような要因で影響を受けているかを明示します。
依拠する約款を明示する。民間 (七会) 連合協定工事請負契約約款には、物価変動等による請負代金額の変更に関する条項が設けられています。標準的な約款に基づく対応であることを示すことで、個別交渉ではなく契約上の手続きとして扱えます。
協議の対象を金額に限定しない。納期遅延や出荷停止が生じた場合に備え、工期の延長についても協議事項に含めておきます。
まとめ
見積の有効期限と契約条項の但し書きは、それぞれ異なる区間を対象とする措置です。
- 有効期限 — 見積提出から受注までの期間に対応
- 但し書き — 受注から発注、および施工期間中に対応
いずれか一方のみでは、資材価格の変動リスク全体をカバーできません。あわせて、協力業者に対しても受注後速やかに発注する運用を維持することで、調達側の単価安定にもつながります。