担い手を育てる制度は、現場でどう運用されるのか

国土交通省が2027年度から、建設団体による人材育成の取り組みを支援する新事業を始める方針を示しました。職種別のリスキリング教材やカリキュラムの作成、ICT活用人材の育成、施工BIMの活用、そして労務費を内訳明示した見積書の作成などが支援の対象に並んでいます。26年度の建設投資は80兆円を超える見通しで、仕事は増える一方、担い手は足りない。その構図への対応です。

方向として異論はありません。ただ、こうした制度が現場に降りてきたとき、実際にどう運用されるのか。建設業向けのシステムを開発する立場から、現場で伺った話をもとに、いくつかの論点を整理します。

労務費の内訳明示は、半分の見積書にしか書かれていない

支援対象のひとつに「労務費を内訳明示した見積書の作成」があります。2024年の担い手三法の改正で、労務費に相当する額を明示した見積りが求められるようになった流れの延長です。技能者の賃金が正しく行き渡るように、見積書の段階で労務費を可視化する。趣旨としては理解できます。

では、実際に協力業者から出てくる見積書のうち、労務費の内訳が書かれているものはどれくらいか。現場の担当者に伺うと、およそ半分だといいます。

書いてくる業者には傾向があるそうです。公共工事や大手ゼネコンの工事を多く手がけている会社です。発注者側から求められる機会が多いため、書式として定着しているのだと思われます。逆に、民間工事を中心に地域で仕事をしている業者からは、内訳のない見積書が出てきます。

そして、書かれている場合でも、その中身が実態を反映しているとは限りません。多くは諸経費に含まれる額を按分して労務費として計上したもので、実際にその金額が技能者の賃金として支払われることを担保するものではない、という声を複数聞いています。書式として要件を満たすための記載になっているということです。

内訳のない見積書を差し戻す元請は、多くないと聞きます。差し戻したところで、按分した数字が書き足されて戻ってくるだけだからです。

制度の目的は技能者の処遇改善にあります。しかし現状の運用のままでは、書式が一つ増えるだけで、賃金には届いていません。教材やカリキュラムの整備に予算を投じる前に、この点をどう扱うかを整理する必要があります。

誰が何を受けたのか、元請には見えない

職種別のリスキリング教材が整備されたとして、それを受けるのは協力業者の職人です。

ここに構造的な問題があります。元請には、協力業者の職人がそうした教育プログラムを受けているのかどうかを知る手立てがありません。受講の有無は業者と職人の間の話であり、元請に共有される仕組みがないためです。

制度の設計上、これは当然といえば当然です。教育は建設団体を通じて職人に届けられ、元請はその外側にいます。しかし、育成された技能を実際に使う場は現場であり、その現場を管理しているのは元請です。誰がどの技能を身につけたのかが見えないまま、育成だけが進んでいく構造になっています。

現場で職人の技能に関する情報が元請に届く、数少ない機会があります。新規入場時の書類です。免許、技能講習、特別教育。ここで申告される資格は、まさに「その職人が何をできるか」の記録にほかなりません。

ところが、この記録は多くの現場で紙のまま処理されています。朝、現場で調査票を配り、書いてもらい、回収してファイルに綴じる。書かれた内容は、その現場のファイルの中で完結します。同じ職人が翌月に別の現場に入れば、また同じことを最初から書きます。技能の記録として蓄積されることはありません。

新規入場者の登録を、スマートフォンで完結させる

この課題に対して、当社が提供する建設業向けサービス「Fabrica」では、新規入場者の登録をスマートフォンで完結させる機能を公開しました。

現場ごとに発行したQRコードを掲示し、職人が自分の端末で読み取ると入場フォームが開きます。現場規則を読み、入場前の確認事項に回答し、氏名や所属、保有資格を入力して送信する。アカウントの登録は必要ありません。送信された内容は、元請の管理画面に即座に反映されます。

資格の入力欄には、免許・技能講習・特別教育の項目を一覧で用意しています。自由記入も併用できるため、一覧にない資格も記録できます。紙の調査票では書き手の記憶に頼っていた部分が、選択式になることで漏れにくくなります。

そして、送信後に職人が希望すれば、入力した内容をそのまま保存できます。次に別の現場のQRコードを読み取ったとき、氏名も資格も入力済みの状態でフォームが開きます。現場ごとに同じことを書き直す作業がなくなり、職人が自分の技能の記録を持ち歩ける形になります。

フォームは日本語・英語・ベトナム語・中国語簡体字に対応しています。

制度として整備される教育プログラムの受講履歴も、本来はこうした情報と同じ性質のものです。受けた本人と、その技能を使う現場の双方に残る形が望ましいと考えます。

減っているのは、承継が必要な職種

「職種別」という括り方についても、現場で聞く話を申し添えます。

不足が深刻なのは、左官や大工といった、技術の承継が必要な職種です。短期の講習で身につく類の技能ではなく、年単位で手を動かして覚える種類のものです。

減っていることの影響は、二つの形で現れています。ひとつは手配の難しさで、工程を組む段階で職人の空きを確認しなければならず、思うように日程を押さえられません。もうひとつは単価で、明示的に上がったと言われるわけではないものの、需給を反映して水準は上がっているという見方が聞かれます。

リスキリングという言葉が想定しているのは、既にいる人材に新しい技能を足すことです。しかし左官や大工で起きているのは、そもそも入ってくる人が減り、教える側も減っているという事態です。教材とカリキュラムの整備でこれに応えられるかどうかは、見通しが立ちません。

BIMは、価格で止まっている

支援対象にはICT活用人材の育成と施工BIMも入っています。

地域の建設業の多くは、施工図をCADで作成しており、BIMは使っていません。使いたくないわけではなく、導入の障害は価格です。

主要なBIMソフトは、更新のたびに価格が上がり、現在は1アカウントあたり年間40万円を超える水準に達しています。社員全員分を揃えれば、年間で数百万円の固定費になります。人材育成の投資として毎年支出し続けるには、相当の覚悟が要る金額です。実際に一度導入したものの、更新時の値上がりを受けて継続を断念した、という話も聞きます。

一方で、監理者や発注者からBIMでの提出を求められる場面は、地域の工事ではほとんどないといいます。設計事務所側でも十分に活用が進んでいる状況ではなく、業界全体として、価格に見合う場面がまだ限られているのが実情です。

人材の育成を支援するのであれば、その人材が使う道具に手が届くかどうかも、あわせて見る必要があります。

外国人材は、まだ一次下請の翻訳で成立している

同じ時期に、外国人労働者の日本語能力について、読解力の底上げが課題だとする調査結果が公表されています。

現場に外国人の職人が入ることは珍しくなくなりました。ただし多くは二次下請以下で、元請が直接やり取りする場面はほとんどありません。一次下請の担当者に日本語で指示を出せば、そこから先は伝わるためです。

言い換えれば、今は一次下請が翻訳の役割を担うことで成立しています。この構造は、外国人材が二次下請以下にとどまっている間しか続きません。今後、外国人が経営する会社が一次下請として入ってくるようになれば、元請が直接、日本語以外で意思疎通をとる必要が出てきます。

そのとき問題になるのは、日常会話ではなく書面です。現場規則、施工要領、安全に関する指示。これらは読んで理解してもらう必要があり、調査が指摘する「読解力」がまさに問われる領域です。

Fabricaの入場フォームを4言語に対応させたのは、この変化が遠からず来ると考えているためです。通訳を介さず、職人本人が自分の言語で現場規則を読み、内容を理解したうえで確認事項に答える。安全に関する情報は、伝言ではなく本人に直接届くべきものだと考えています。

制度と現場の間にある距離

いくつかの論点を並べましたが、共通しているのは、制度が想定する場所と、実際に人が動いている場所の間に距離があることです。

労務費の内訳は、書式としては整いつつあるものの、賃金には届いていません。教育プログラムは職人に届きますが、その職人を使う元請には見えません。BIMは支援の対象になっていますが、価格の段階で止まっています。外国人材の日本語能力は、いまは一次下請が肩代わりすることで表面化していません。

制度が悪いというわけではありません。ただ、支援の設計にあたっては、現場でそれがどう運用されるかまで含めて見ることで、実効性は変わってきます。

Fabricaは、こうした現場の実務から生まれた課題に、道具の側から応えていくサービスです。新規入場者の登録機能は、登録不要でお試しいただけます。